研究室コラム

くらし+きかい=さりげなさ

お医者さまをも超えてしまう
触診の技術をもったきかいで、
さりげなく病気を発見。

大学院 医工学研究科 医工学専攻
工学博士 教授 田中 真美

ヒトの手のメカニズムを解明

髪の毛でも布地でも、私たちは手や肌で触れて「さらっとしている」とか「やわらかい」と感じることで、そのものの性質を想像したり、判断したりしています。私の研究室では、この触感を繊細に感じとる手のカニズムを解き明かし、医療に役立てることをめざしています。

ここ数年、私たちは乳がんの触診に関する研究を行っています。目標は、経験豊富なお医者さまの技術を超える触診を、きかいで行えるようにすること。きかいで行うからこそ、お医者さまの経験に影響されず、触診や画像ではわからない部分まで、精度の高い検査結果が得られなければ…と考えています。また、触診がきかいでできるようになれば、患者さんのストレスが軽減される分、さりげなく病気を見つけたり、さりげなく病気を治したりすることができるようになるかもしれません。やわらかさとか、かたさの感じ方には個人差がありますから、その違いが何によって生まれるのかを解明することも大きな課題です。でも、悩んでばかりいては先に進めませんから、まずは行動してみる。それが私の研究室のモットーです。

女性の感性をものづくりに!

医療の分野で役立つ研究と並行して、日常生活の中での手触り感に着目した研究も行っています。それは、機能以外の付加価値といってもよいでしょう。例を挙げるなら、スマートフォンのタッチパネル。タッチパネルの保護フィルムは、すでに「ファンデーションがつきにくい」とか、「さらさらした気持ちのいい手触りのもの」が開発されています。しかし、私たちが取り組んでいるのは、そういった触感をタッチパネル自体に持たせようという挑戦です。洗濯洗剤のボトルもターゲットの1つです。それに触れただけで、しっとり感が残るとか、ふんわり仕上がる…といったことが感じられる容器の開発にも、企業と一緒に取り組んでいます。

乳がんの触診デバイス開発がまさにそうですが、女性にしかわからない感覚というものがありますので(もちろん、男性にしかわからない感覚もあると思いますが)、女性たちの声を、これからのものづくりにどんどん反映していきたいですし、それはとても重要なことだと思います。男性はもちろん、もっと多くの女性のみなさんに、私の研究、そして工学に興味を持っていただけたら、工学が真に社会に貢献できるフィールドが広がって、私たちの未来はきっと、もっと豊かになるはずです。