研究室コラム

くらし+きかい=ゆめ

あらゆる可能性を秘めた
分子ロボット、つくり方は
「混ぜるだけ」、なのです。

大学院 工学研究科 バイオロボティクス専攻
工学博士 教授 村田 智

テクノロジーの大革命

例えば、「水の中にDNAを入れてかき混ぜるだけで、何十兆個という微小サイズの歯車ができる」といったら、君はどう思うでしょうか。DNAは2重らせんというのはどこかで聞いたことがあるけれど、歯車とDNAってどんな関係があるのだろう、と首をかしげるかもしれません。生物学で扱うDNAやタンパク質などの分子の世界は、生物が40億年もの時間をかけ、自然淘汰によって少しずつ改良を重ねてきたもので、解明されていない部分も多い複雑な世界です。しかし、登場する役者をDNAに限ってしまえば、複雑な分子の世界もずいぶん単純化して考えることができます。こうすることによって、いろいろな分子の動きや作り方の見通しをよくしようというのがDNAナノテクノロジーの考え方で、そこでは、DNAはそれ自身にプログラムを書き込むことのできる材料として扱われます。

私の専門は「分子ロボティクス」です。この分野はナノテクノロジー、バイオテクノロジー、ロボティクス、これら3つのテクノロジーが重なる領域に生まれました。始まってまだ10年あまりの分野です。めざしているのは分子そのものを設計し、その分子が自らシステムを組み立て、自律的に行動すること。分子そのものを設計するとは、塩基配列を適切に設計したDNAを化学合成することで、これによってDNAが歯車なら歯車の形に折りたたまれ、様々な形状をつくり出せるのです。

このことが何を意味するかというと、これまでの生産技術は、金属のかたまりから不要な部分を削って部品をつくるという方法をとってきましたが、設計された分子の部品には、部品同士の結合関係を付け加えることが可能で、部品同士が勝手に結合してより大きな構造をつくりだすこともできるということです。つまり、材料となるDNA分子を水の中で混ぜるだけで、部品ができあがり、その部品同士がひとりでにくっついてロボットができあがるわけです。しかも、ものすごい台数の微細なロボットが同時にできあがります。つまり、分子が自律的に行動する"分子ロボット"をつくるには、工場は必要ないのです。このような人工物のあり方はこれまでにはないもので、テクノロジーの大革命といっても過言ではありません。

未来を支えるのは”夢見る力”

分子ロボットには、どんなことができるのでしょうか。一つの例が薬です。狙った臓器だけに薬を届けることができれば、抗がん剤などに見られるつらい副作用を軽減することにつながります。これはドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼ばれ、薬学研究者の長年の夢です。分子ロボティクが生かされるのは、この次の段階。例えばDDSで使われる薬のカプセルに計算機を入れて、体内の細胞の中にあるDNAから情報を収集、体調チェックを行い、悪いところが見つかれば病状に合わせて投薬するとか、複数の分子ロボットを注射すると、それらが体内で拡散し、分子ロボット同士が情報を交換し合って、具合の悪いところに集まり、治療を行うことも可能になるでしょう。DDS自体が難しい技術だけに、これを実現するには時間が必要ですが、原理的にできないことはありません。「まるでSFのようだ」と言う人もいるでしょうが、これまでも"さまざまな夢の技術"が実現されてきたように、必要性があれば工夫は続けられていきます。分子ロボティクスもしかり。国を支える基盤になるかどうかは、まだ誰にも分かりませんが、君がいまからきちんと勉強をしていけば、この分野のパイオニアになれることは確かです。