研究室コラム

くらし+きかい=けんこう

工学と医学が一緒につくりだす
QOLを高めるシステム
マイクロチップ イン ザ・ボディ。

大学院 医工学研究科/工学研究科
バイオロボティクス専攻
工学博士 教授 田中 徹

人間と機械をつなぐ技術

マイクロチップ イン ザ・ボディ…正式には「生体融合型医用マイクロ・ナノシステム」ですが、マイクロチップを体の中に埋め込み、病気の診断や治療、予防に役立ててQOLの向上をめざす。それが私の研究テーマです。

具体例をご紹介しましょう。一つは医学的な治療法が確立していない病気で失明してしまった患者さんの網膜に、マイクロチップを埋め込んで、目が見えるようにするというものです。デジタルカメラには光を電気に変換するチップが入っていて、そのデータがメモリに記憶され、私たちはそれを画像として見ることができますね。その原理を応用したもので、生体適合性の高い素材で、ものすごく小さく、しかも完成度の高いマイクロチップをつくり、網膜の働きをさせるわけです。失った視力を取り戻すことで、患者さんのQOLは大きく向上する。それは私たちにとっても大きな喜びなのです。

さらに工学と医学が一緒になったシステムを挙げてみると、脳に微細加工を施した針を入れ、電気を送ることで病気の治療や診断、予防を行う脳深部刺激治療法の研究。また脳から直接信号を取り出して、ロボットの腕を思いのままに動かすといったシステムの研究開発も行っています。実はこうしたシステムの開発で最も重要なのは、人間と機械の"つなぎ目"の部分なんですね。一つの完成品である人間と機械をどうつなぐのか。どんなシステムでも、このインターフェイスの部分が最も難しいのです。

工学は人の幸せのためにある

私の研究と教育の日々を支えているものが、二つあります。一つは大学の恩師から教えていただいた工学の意味。「工」という文字の上の線は天の理(ことわり)、つまり自然現象の背景にある根本原理を表していて、下の線は地の人、つまり私たちを表します。そして真ん中の線が天と地を結んでいます。つまり、工学とは天の理を地の人のために役立てるようにするもので、「私たちが幸せになるテクノロジーでなければ意味がないんだ」と。この教えが根底にあるからこそ、「人の役に立つものをつくり上げよう」という姿勢で、今日まで研究に取り組んでこられたのだと思います。

そしてもう一つは、私が大学院時代の話です。実験で予測通りのデータを得ることができ、早く解析をしたくて思わず走りだしていたことがありました。「わかった!」という興奮と喜びは、いまも私の原動力になっていますし、あのドキドキ感を皆さんにも味わって欲しいのです。

皆さんの若い感性が描く"マイクロチップ イン ザ・ボディ"のアイデアが、明日の医工学を変えるかもしれません。

※QOL:生活の質