研究室コラム

くらし+きかい=真に豊か

泡で金属を叩いて強くする!?
不思議、
キャビテーション。

大学院 工学研究科 ファインメカニクス専攻
工学博士 教授 祖山 均

主役は「衝撃波」

私の研究室では、泡で鉄のような硬い金属を叩いて強くするという研究を行っています。そこでまず、泡とは何かを考えてみましょう。水の状態から温度を上げていくと、水は泡の状態になります。いわゆる沸騰です。でも富士山のてっぺんで同じことをすると、気圧(圧力)が低い分だけ沸点下がり、計算上、水は87度くらいで沸騰するんです。ですから圧力だけ下げていくと、水は水でいられなくなって気体=泡になります。この泡が私たちの研究対象です。泡は水に戻るときに縮むのですが、一度泡になったものは簡単には水に戻ることができず、再膨張します。このときに衝撃波を発生するんですね。この現象をキャビテーションといいますので、覚えておいてください。

次に、なぜ金属を叩くと強くなるのかについてお話しします。金属の表面には、叩いた分だけ圧縮の力が働きます。モノが壊れるときというのは、だいたい引っ張られて壊れるので、圧縮の力を入れてあげればその分だけ強くなるのです。通常は砂粒のような鉄の玉で打って強くしますが、表面がデコボコになってしまうんです。その点、泡で叩くと比較的ツルツルのままで強くなる。そこに意味があるのではないかと思っています。

軽量化で燃費が向上

泡で叩くメリットをもう1つ。例えばアルミを鉄の玉で打つと、表面に鉄分が残ってしまい、鉄とアルミで電池ができて勝手にさびて壊れてしまいます。飛行機などの部品はどうしているかというと、鉄で叩いたあと、同じくらいの時間とコストをかけて化学洗浄をしています。キャビテーションで使うのは水なので、その手間がいりません。また、材料が強くなると使用する量が少なくて済むので、例えば自動車の軽量化が可能になり、燃費が良くなって、二酸化炭素削減にもつながるというわけです。

最後に私の話を少し聞いてください。高校の3年間は、陸上部で走ってばかりの毎日でした。卒業後、多くの人の助けになることを勉強しようと東北大学工学部に入学しました。1994年から2年間は、日本学術振興会の海外特別研究員として英国での研究生活も経験できました。英国で出会った人のこと、実験装置を自作する意義、この国の豊かな未来について、きみと話したいことはたくさんあります。いつか私の実験室のドアを叩いてくれたらうれしいです。待っています。