研究室コラム

くらし+きかい=安心

目に見えない世界に
着目すると、“安心”が
見えてきます。

大学院 工学研究科 ナノメカニクス専攻
工学博士 教授 横堀 壽光

「破壊」(予測)は実験室で起きている!?

君は「金属疲労」という言葉を知っていますか?金属などの材料が力を長期間、繰り返し受けるうちに亀裂ができたり、強度が落ちたりする現象です。この金属疲労は金属あるいは生体でも、内部に発生する目には見えない微視的スケールの損傷、ナノメーターの世界で始まります。 例えば金属なら原子の結晶の並びが崩れ、その現象が広がって目に見える亀裂になり壊れる。生体ならコレステロールが沈着して血管が損傷を受けるといった具合。私の研究室では航空機や船、自動車、ジェットエンジン、高効率発電機器などの構造材料、電子デバイス及び生体組織材料を含めて、微視的な原子の欠陥部分に力がかかると、材料はどう変わっていくのかをシミュレーションしつつ、どこに力がかかって、どう壊れるのかを原子の欠陥の動きに着目して解明する研究を行っています。この変形予測は、30年ほど前までは現場技術者の「経験則」にも頼っていました。しかし、いまは確かな実験系と的確なシミュレーションによって、研究室で、しかも目に見えない段階から予測することが可能になりました。生体に関する研究はその応用です。

この研究の目的は、破壊のメカニズムを予測して寿命が来る前に部品を取り替えたり、機械そのものを入れ替えたりして破壊による事故を防ぎ、みんなが安全に、安心して暮らせる世の中に貢献しようというものです。機械的構造物の故障によって引き起こされる事故は、人命に関わることが少なくありません。ですから、私はいつも「提供した情報に謝りがあり、万一にでも事故が起こったら言い逃れはできない」という緊張感をもってやってきましたし、それが研究のやり甲斐でもありました。

「いつもある」は一生もの

私が学生時代に夢中になっていたもの。それは「野球」でした。しかし、それがどうにもうまくいかず、大学で研究していたテーマも、現在のもとのは違います。そこで実感したのが、好き嫌いに関わらず、気がつくといつも自分の近くにあるコト・モノに注目して大事にすると、いいことがあるということ。不思議といろいろなモノ・コト、そして人とのつながりができ、いい結果がついてくると思うのです。

東北大学工学部の偉大な先生であった武山斌郎先生は、「工学とは不便なものを不便でなくする、便利にするものである」とおっしゃいました。いまのように便利で快適なモノが何でも揃う世の中にあって、「どうしても必要なもの」に思いを巡らすとき、それは「安心」ではないかと私は思うのです。もし君が「安心」を世の中に届ける工学に興味があるなら、研究テーマを見つけにまちに出て、コーヒーでも飲みながら、人の話し声に耳を傾けてみましょう。目には見えない不安や困りごとが、見えてくるかもしれません。