研究室コラム

くらし+きかい=安心をあたりまえに

「計測」、それは
すべての技術に先行するもの。
安全・安心・快適な日常を
根底から支えています。

大学院 工学研究科 ファインメカニクス専攻
博士(工学) 教授 高 偉

本当に「300g」か?

スーパーのお肉に「300g」と書いてあったら、私たちはその重さが本当に「300g」なのか、疑いもしません。体重計の値も、体温計で熱を測ったときも、その結果を信用しきっています。それはなぜでしょうか。答えは、科学者が定義した重さや長さ、熱さなどと、計測結果の間の誤差が限りなくゼロになるよう、私たちが日々、努力を重ねているからです。そしてこの研究室では、部品の形と機械の動きを正しく測ることのできる精密測定機をつくったり、正しい計測方法を開発したりしています。100年前は電車や自動車をつくるために、10分の1ミリメートルが正確に測れれば充分だったかもしれません。しかし、いまは違います。ナノメートル(100万分の1ミリメートル)の世界を正確に計測できなければ、スマートフォンもパソコンもつくることができませんし,飛行機も新幹線も安心して乗れません。安全・安心・快適な暮らしができなくなります。以前、企業との共同研究で、紙オムツの新しい製造工程の開発を行ったことがあります。材料である紙を切る「刃」の最適な高さを割り出し、レーザー光を使って計測してナノ単位の高さを形にしました。これにより簡単で速く、しかも安く優れた紙オムツを製造できる技術を完成させることができたのです。

オープンマインドで新発見

これまで内視鏡の光学部分や液晶テレビのカラーフィルターを塗布する技術、食品用ラップフィルムの高性能化をかなえるなど、多くの計測に関わりました。その対象が何であれ、計測はすべての技術に先行します。それは、どんなに最先端で画期的な生産技術が完成しても、機械の動きや部品の形が正しいかどうか、精度高く計測できなければ、世の中に出すことができないからです。

私が計測の研究室に入ったのは、ちょっとした勘違いからでした。高校までは勉強よりも、スポーツが好きだった私の自慢は視力が良いこと。なぜか「計測の研究は顕微鏡を見ることだ」と思い込み、2.0の視力が生かせると思ったのです。でも、いまになってみると、別の研究室を選んでいても、私はその道に興味を持ち、楽しくやって来れたのではないかと思うのです。科学というものは根底ではつながっています。ですから学生の皆さんには、オープンマインドでいろいろなことを学んでほしいと思います。そして人と違うテーマを選び、新しい発見をしてください。それが研究の醍醐味だと私は思います。