研究室コラム

くらし+きかい=癒し

「表面」に付加価値を!
これからの“ものづくり”は
形状創成から機能創成へ。

大学院 医工学研究科/工学研究科
機械機能創成専攻
工学博士 教授 厨川 常元

ヒントは「自然界」にあり

今世紀中に高齢者が総人口の1/3を超える超高齢社会を迎えるといわれているいま、ものづくりがめざす方向も、大きく変化しています。これまでの「○○ができる」という、便利な機能をかなえるためのものづくりが、いまは機能性がプラスされ、“安心かつ安全で質の高い生活をかなえるものづくり”に変わってきています。

私たちの研究室が行っているのが、まさにこの “安心かつ安全で質の高い生活をかなえるものづくり”= 機能創成です。ピンとこないかもしれないので、一つ例を挙げてみましょう。携帯電話の画面は、太陽の光が当たると文字情報が見えにくくなるでしょう。いくら画面の表面を平らに、なめらかに、形状精度良く仕上げても、その問題は解決できません。しかし、その「困った」を解決する付加価値をプラスしたものづくりをかなえるヒントが、自然界にありました。例えば蛾の目は、「モスアイ構造」といって、光を反射しない無反射層になっています。この構造を人工的に携帯電話の画面に再現することで、太陽光を反射しない表面をつくることが可能になります。この他にも、水をはじく性質をもつ蓮の葉の構造を模倣して、手術などに使われる内視鏡のレンズの表面を加工し、血液や脂などが付着しにくくするなど、機能創成の技術は、医療の分野にも応用され、実用化されはじめています。

新しい夢に向かって

私自身、「研究者っていいな」と小学生のころから思っていたのですから、ある意味、夢をかなえられたともいえます。でも、夢は次々と生まれてくるもの。いまは機能創成の研究に心血を注ぎ、安心や癒し、人と人との和(つながり)を提供できるよう、研究成果を製品にして世の中に送り出したいと思っています。そのために、企業との共同研究を積極的に行っています。また、ものづくりにたずさわる人材を育てようと、小学生を対象とした「子ども科学キャンパス」の施設を工学部内の敷地に設けました。一人でも多くの子どもたちに、科学に興味をもってもらえればうれしいです。もちろん、きみにも。

人工股関節に使用されるチタンの表面に、骨との親和性が高くなる加工を施す技術や、歯の表面に歯と同じ成分の膜をつくることで歯周病を予防する技術など、話したいことはたくさんあるのです。きみが私の研究室のドアをノックしてくれたら、そのときはもっと先に進んでいる機能創成の技術について、じっくり話しましょう。