研究室コラム

くらし+きかい=ナノメカニクス

まちや人を見守る“ナノ”、
小さいけれど、つながることで
大きな活躍をするのです。

大学院 工学研究科 ナノメカニクス専攻
工学博士 教授 桑野 博喜

ナノ・センサは数で勝負する

私の専門は「ナノメカニクス」で、ひと言でいうと「何でも小さくしよう」という研究をしています。

例えば君が住むまちや家、学校で火災報知器や侵入者を監視するカメラなどのセンサを見かけたことがあるでしょう。そのセンサを君の頭の中で1センチ角くらいに小さくして、ビルの中や外、道路、橋などあらゆるところにたくさんくっつけてみてください。そのセンサの種類は多様で、建造物のひずみや振動、そこにかかる力や空間を漂うガスなどが感知できるとします。

また、センサ同士がネットワーク化され、そこで得た情報を自動的に整理して、必要としている人や機関に通知できるとしたらどうでしょう。構造物の状態を常に把握することが可能で、例えばCO2の発生量が多い箇所もわかるようになるわけです。

ただし1個のセンサだけではダメで、複数個のセンサで計測した情報が必要なんですね。なぜなら、その1個を散歩中の犬が踏んづけただけで、「道路が崩壊している!」という誤った情報を受け取る可能性があるからです。

一つひとつは小さくても、つながれば大きいことができる。ナノメカニクスは無限の可能性を秘めているのです。

難しい技術を誰もが使えるカタチに

このように人の代わりに小さなセンサで構造物や環境の変化を検知して通知するサービスや、これによって成り立つ社会システムを私は『センサ・コミュニケーション・ソサエティ』と名付けて、いまは小さなセンサと、それを動かすエネルギーシステムを開発中です。

「大きな構造物に使うセンサなら、小さくなくてもいいのでは?」と思うかもしれません。でもこのサービスは人の健康管理に利用することも考えているのです。センサを腕時計に搭載したり、体に直接貼ることで血圧や脈拍、心拍数などを常にモニタして、異常があれば病院に通知されるというしくみ。ですからセンサは小さければ小さいほど使いやすいし、動かすエネルギーも少なくて済む。ここにナノメカニクスが活かされるわけです。いたるところにセンサがあり、建物、道路、橋などの状態をモニタリングし、人と人との豊かなコミュニケーションに役立ち、また環境保護にも貢献します。

いつも研究の出発点と終点には「人の暮らし」があって、難しい技術でも、誰もがカンタン・便利に、気軽に使いこなせるモノをつくりたいと思っています。工業製品は人に使われて、役に立って初めて意味があるのですから。