研究室コラム

くらし+きかい=謎とき

乱流とハサミは使いよう。
エネルギッシュな流れは、
たくさんの可能性を秘めている。

大学院 工学研究科 機械システムデザイン工学専攻
工学博士 教授 福西 祐

謎に満ちた乱流

人間の僕はそれほど真面目ではないのですが、やっている研究、流体力学の「乱流」はいたって真面目といいますか、その難解さは、かの物理学者ハイゼンベルクが死ぬまぎわに「天国で神様に会ったら質問してみたい。でも神様も答えを知らないのではないか」というようなことをいったとかいわないとか、そんな逸話があるほど。だからこそ「自分がやらなければ誰がやる!」という心意気で、僕自身はやっているつもりです。

乱流の話をしましょう。身近な例でいえば蚊取り線香の煙。スーッと上がって途中から乱れるのを見たことがあるでしょう。スーッと昇っていく部分は層流、乱れた部分が乱流です。乱流は燃費を悪くするので、飛行機の乱流を制御して燃費を向上させる技術の研究開発を行っています。一方で新幹線の最高速度が騒音で決まっていることは知っている人も多いでしょうが、車輪から出る音ではなく、空気の流れから出る音が問題なんです。何しろ速度の6乗でどんどん大きくなります。そこで、この音を空気の流れを制御することで消してしまうという研究をしています。ここでも乱流はやっかいです。

ここまでの話だと、乱流はまるで悪モノですが、実はとてもエネルギッシュで、ふーふーと息を吹きかけて熱いものが冷えるのも、ゴルフボールが遠くに飛ぶのも乱流のおかげ。要は使い方によって、毒にも薬にもなる二面性をもっているわけです。

次代につなぐ乱流バトン

正直なところ、僕は生化学のような道に進もうと思っていました。白衣ってかっこいいでしょ。でも高校の友人たちは、僕はどうせ航空に行くだろうと思っていたようです。気がついたら、やっぱり航空の道に入っていた(笑)。そして大学院で素晴らしい先生に出会いました。国際的に有名な先生なのですが、いつも実験室にいて僕らと一緒に実験をやって、研究の楽しさを身をもって教えてくれたんです。だからいま、僕も学生諸君に幾分かでもそのときの楽しさを感じてもらえたら嬉しいし、それが使命だと思っているんですよ。

君はまだ「これだ!」と思えるものに出会っていないかもしれない。でも自分が当初考えていたのと全く違う分野に進んだとしても、そこにはその分野に面白さを見つけた人=先生がいるわけで、そこにいるうちに楽しさを分かち合える確率は高いと僕は思っているんです。だから、何でも首を突っ込んでみたらいい。もちろん乱流にも(笑)。

僕にとって乱流の研究とは、頂上が見えない大きな山に登っているような気がしています。一緒にこの山を登りましょうよ。そして僕が恩師から受け取ったバトンを、君に受け取って欲しいと思っています。